特定行政書士の「特定」って何?

行政書士が何をする人なのかよくわからないという方も多い中、更に最近は『特定行政書士』という表現も多くみられるようになったので、今日は『特定行政書士』とは何か?について説明します。

特定行政書士とは?

堅苦しい言い方をすれば、2014(平成26)年改正の行政書士法第一条の三に掲げられた業務の内、以下の業務を行える者です。

行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。

行政書士法 第一条の三 第二号

まぁ要するに、行政庁の許認可等に対して『不服申立て手続』の代理が出来る行政書士という事になります。

また、『特定行政書士』となるには、行政書士会の行う法定研修を受け考査に合格する必要があります。

2019年度の研修受講者数が437人で、その内考査合格者が312人ということですから合格率は71.4%だそうです。

71.4%の合格率というと一般の資格試験類では難易度の低い試験に分類されるでしょうが、現役行政書士の内3割弱は不合格となっていることから、『考査』とは名目だけで研修を受講すれば誰でもなれるというようなものでもなく、相応の知識の上積みはされていると思われます。

不服申立て手続きって?

「不服申立て」というのは、言葉の通り「不服」を「申し立てる」ことですが、例えば飲食店をオープンするため営業許可の申請をしたところ、「あなたのお店は厨房に○○が設置されていないので許可できません」といわれたとします。

指摘の通り○○が無いのであれば、設置してからもう一度申請し直すしかありませんが、「いやいや〇〇はちゃんとあるよ!よく見て下さいよ!!」ということであれば、「許可できない」という行政庁の判断に「文句(不服)」を「言う(申し立てる)」ことが出来ます。

この場合、判断が間違っているのですから、「文句(不服)」を「言う(申し立てる)」のは当然のことで、誰に何の遠慮があるものか!と言いたいところですが、隣のおっちゃんに文句を言うのとは違って、お国(行政庁)を相手にした場合、勢い込んで怒鳴り込んでも相手にしてもらえません。

文句を言うにも正式な手続きを踏まなければならず、この手続きの事を「不服申立て手続」といい、「行政不服審査法」という法律に則ってジャッジされることになります。

争いごとは行政書士の業務外!

不服申し立てということになれば、あなた(申請者)と行政庁の『争い』ということが言えます。そして、争いごとは弁護士の業務であって行政書士が扱える業務ではありません。

ですから2014(平成26)年の改正までは、例のようなケースで『不服申し立て』を代行してもらおうとすれば、元の申請手続きを代行した行政書士ではなく、新たに弁護士に依頼することになったわけです。

しかし、申請者にしてみれば申請の段階から相談している行政書士に引き続き依頼したいという声もあったことから、『行政不服審査法に基づく行政不服審査制度』が50年ぶりに見直されることとなりました。

特定行政書士による不服申し立てが認められることで、行政書士が不服申し立てまで担当できるようになり『申請書類の作成と提出 』だけでなく『 不許可等になったときの対処』も行政書士が業として扱うことが出来るようになったのです。

法改正の法案提出時の理由について衆議院に以下のような記録があります。

行政に関する手続の円滑な実施及び国民の利便向上の要請への適確な対応を図るため、所定の研修の課程を修了した特定行政書士は、行政書士が作成した官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、異議申し立て、再審査請求等行政庁に対する不服申し立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成することを業とすることができることとする必要がある。

衆議院

とはいえ…

実際問題として、例のように単純な事例に留まらず、不服の内容が明確であれば、不服申し立てを行うまでもなく、申請窓口の担当者に直接相談することで解決することが大半で、なんでもかんでも全て「不服申し立て」以外受け付けないという話でもありません。

申請を受けた行政庁にしても、正直なところ手間のかかる「不服申し立て」を進んで受け付けたいとは思わないでしょうから、常識的な範疇で解決できる問題であれば直接相談に乗ってくれるでしょう。

結論として、どちらの行政書士を選んだらいいの?

特定行政書士にしかできない『不服申し立て』という業務が存在する以上、他の条件が全く同一であるなら、あえて特定でない行政書士を選択する理由はありませんので、特定行政書士を選択すべきでしょう。

一方で、選択肢の基準に特定行政書士であるかどうかという事を考慮する理由も見出し難いというのが私の率直な意見です。

不許可になったときに不服審査も任せれられる行政書士を選ぶというより、許可されるようなアドバイスをしたうえで申請してくれる行政書士の方が依頼者にとってもメリットは大きいと思うからです。

学術的な分類は別にして、個人的には『争い事』の一方代理人となるのが弁護士だとすれば、『争い事を回避』するお手伝いをするのが行政書士だと考えているので、依頼する行政書士の人柄や立地、金額等を優先し、甲乙つけがたい2者の一方が『特定』でもう一方が『そうでない』なら『特定』にしておくという程度でよいのかなと思います。