遺言書を見直すタイミング
まず初めに、「遺言書は、書いた時から有効(効力を生じる)」と勘違いしている人がいますが、民法には以下のように記されています。
遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。
民法 第九百八十五条
つまり、遺言書に何を書こうが死ぬまでは何の効力もないということです。
ですから、いつでも書き直したり、無かったことにしても良いわけです。
民法にもちゃんと書いてあります。
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。
民法 第千二十二条
ここで、「遺言の方式にしたって」というのは、法的に有効な遺言書であるという意味ですから、公正証書で遺言書を作成したら新たな遺言書も公正証書遺言書でなければならないという事ではありません。新たに自筆証書遺言書で前に作成した公正証書遺言書の全部又は一部を撤回することも可能です。
遺言書を見直す意味
通常の遺言書は、明日や明後日といった近い将来を想定しているわけではありません。作成から月日が経てばたつほど、書いた内容と実情が合わなくなることが考えられます。
例えば、夫が妻に自宅不動産を相続させる遺言を書いたとします。相続人には妻の他に長男と長女がいた場合、夫が亡くなる前に妻が亡くなったとします。その場合、妻に相続させるとしていた不動産は、長男と長女による遺産分割協議を経なければならなくなります。
せっかく、残された遺族に遺産分割協議書の作成といったような手間を掛けさせまいとして遺言しておいても無駄になってしまいます。
このように、遺言相は実情に合った内容にしておかなければ意味を持たないこともありますので、「作成したからもう大丈夫」と安心せず、定期的に見直すことも重要です。
※このケースの場合、予備的遺言をすることで回避することも出来ますが、その話はまた別の機会に…
具体的な見直し時期
基本的に、「相続人に変化のあったとき」、「保有財産に変化のあったとき」には見直しを行うべきですが、時期を決めて定期的に見直すのが一番良いと考えます。
私は自筆遺言証書を作成し、法務局の保管制度を利用しているのですが、毎年お正月の三が日のどこかで見直しを行っています。「お正月に死んだ後の遺言書のことを考えるなんて…」という人もいるでしょうが、お正月だからこそ家族全員が集まる機会もあり、個人的には遺言書を見直すには最適な時期だと思っています。
まあ、この辺りは個々人それぞれのお考えもあるでしょうから、何もおめでたいお正月に「遺言書のことなんか考えたくないよ」と思われる方は、自分の好きな日を一日決めて年に一度見直してみたらよいと思います。
たとえ何の変化もなく、見直す必要が無いと思える場合でも、少なくとも年に1度は見直して、何事もなく無事に1年過ごしてきたことを喜び、遺言書へ記した相続人、遺贈者への気持ちを新たにすることも無駄ではないと思います。