遺言で特定の相続人だけに借金を承継させることは出来ない
債務(借金)は法定相続が原則
例えば、相続人が長男と長女の二人だけだとして、自宅を長男に、預貯金を長女に相続させることは出来ますが、自宅を建てる際に銀行から借り入れた借金がまだ残っているので、この借金は全て長男に返済させる(債務を承継させる)という遺言を残した場合であっても、長女を100%借金から解放させる事はできません。
つまり、万一長男が借金を返済しなかった場合、銀行はたとえ遺言で『借金は全て長男に返済させる(債務を承継させる)』とあったとしても、長女に対しても法定相続分の割合に応じた返済を請求してくるということです。
これは、貸した側(銀行)と被相続人(遺言者)は、債権者と債務者という関係ですから、たとえ遺言であっても債権者の立場を無視して債務者の自由な意志だけで新たな債務者を特定させることはできないという考えによるもので、この場合は被相続人の意志よりも債権者の保護を優先するという事です。
遺言として無効という事ではない
では、『借金は全て長男に返済させる(債務を承継させる)』という内容自体が無効なのか?というと、そういうわけではなく遺言としては有効で、あいくまで債権者(銀行)との関係においては、法定相続分に従い長男と長女それぞれが2分の1づつの割合で相続されたことになるということです。
ですから、仮に長男に代わって長女が残債務を返済した場合、遺言書の内容をもとに長女は長男に対して求償(代わりに払ったんだからその分返して)する権利があります。
どうすればよい?
それでは長女を100%借金から解放させるにはどうすればよいかというと、この場合、長女が相続した借金を長男に『免責的債務引受』させるしかありませんが、これには債権者の承諾が必要になりますので。借入先の銀行に相談するしかありません。長男に十分な担保資産があれば銀行も相談に応じてくれる可能性があります。