遺言する”能力”とは

遺言書を作成するのに、特別な資格や誰かの許可が必要になることもありません。原則誰でもいつでも自由にすることができます。

とはいえ、10歳の小学生の書いた遺言書が法的に有効か?というと、そういうわけにも行きません。
民法961条には「満15歳に達した者は遺言をすることができる」と定められています。

この満15歳に達した者を『遺言能力がある』といいます。

遺言能力とは

要するに、本人がその内容を理解して、その結果がどうなるかを理解することができる能力で、何か商売をしたり高額商品の売買に関して判断できるといった能力よりは低いものという解釈になっています。

そのため、未成年者であっても満15歳に達していれば親権者の同意も不要で、成年被後見人や被保佐人、被補助人であっても遺言能力はあるとされています。

また、認知症などの場合においても、その時の状況や遺言内容の複雑度によって遺言能力はあるとされることもあります。

遺言書の無効を主張される遺言能力

相続争いの代表的なものの一つに、遺言書の有効無効が争われるという事があります。

遺言書の内容に関して不満を持つ相続人の一人が、「すでに認知症で判断能力のなかった人が書いた遺言書なんか無効だ!」と主張するようなケースも、そうした争いの一つです。

このような場合、何を基準に遺言能力の有無が判断されるのか?という問題になりますが、実際のところ一律で数値化できるような明確な基準はなく、裁判においてもさまざまな要素を総合的に考慮し判断されるます。

また、成年被後見人については、事理弁識能力を一時回復したときに医師二人以上が立会うという条件のもとに遺言能力の有効性が肯定されます。

認知症の親が書いた遺言書は有効か無効か

認知症の親が書いた遺言書は有効か?という問題は、実際に遺言者である親が自筆で書いたもので、形式的な面でも不備がなければ一応は有効な遺言書となりますが、全ての相続手続きに支障が生じないという保証はできません。

前述したように、相続人の誰かしらから「遺言能力の無効」を主張されるかもしれませんし、判断能力が低下していれば、遺言内容に矛盾が生じたものになっている可能性も高く、そうなると矛盾した部分は無効になってしまいます。

後々争いの可能性があるといった場合には、遺言書の有効性が訴訟や審判などで争われた場合に備え、医師の診断書等を用意しておく必要があるかもしれません。

尚、参考までに、本人の事理弁識能力の有無程度が問題となる法定後見の申立てにおいて、家庭裁判所が求める事項としては次のようなものがあります。

  • 見当識の障害有無程度
  • 他人との意思疎通の可否程度
  • 社会的手続きや公共施設の利用の可否程度
  • 記憶力についての問題の有無程度

認知症の親に遺言書を書いてもらう方法

結論から言うと、認知症の程度と遺言内容にもよりますが、原則として認知症により遺言能力を失ってしまった場合、遺言書の作成はできないということになります。

すでに介護状態で施設や病院へ入院しているといったような状況であれば、自筆で遺言書を書くという事は難しいでしょうから、公証人に出張してもらい代筆してもらうことになるかと思いますが、公証人も遺言者に遺言能力があるかどうかを見極めてからの対応となりますので、相続人が「父は(母は)こういう遺言を残したいといってました」などと言っても、それだけでは公証人も作成はしてくれないと思われます。

遺言書を作成するのであれば、元気で判断能力もしっかりとしたときに書いてもらうしかありません!

遺言書を書くタイミングについては、こちらの記事もご覧ください、➡遺言書はいつ作るか?