行方不明の相続人がいる <失踪宣告>
”行方不明”などというと、ドラマの世界の出来事で現実にはめったにないことのように思われるかもしれませんが、警察庁が今月公表したデータによると、昨年度の行方不明者数は84,910人にもなります。
相続手続きを進めるためには、原則相続人全員による遺産分割協議が必要となりますが「相続が発生したけど、生死もわからない行方不明の相続人がいる」といった場合、どうしたらよいのでしょう?
預貯金の払戻しを行う際に、金融機関の窓口で「この相続人はもう何年も行方不明で連絡が取れませんから…」といったところで、残念ながら金融機関の担当者が「ああ、そうですか、それでは仕方ないですね。」といってくれることはありません。
たとえ行方不明で連絡が取れないとしても、他に法律上の相続人がいる限り、行方不明者抜きの遺産分割協議では預貯金の払戻しだけでなく、不動産の名義変更なども含めすべての相続手続きが進まないことになります。
このような場合に対処するため、民法(第30条)には失踪宣告という制度があって、行方不明になってから一定年月が経過すると、法律上死亡したものとして扱われます。
ただし、一定年月経ったら勝手に失踪宣告として扱っていいというものではなく、裁判所への申立が必要になります。
裁判所への申立は誰でもできるというものではなく、利害関係人(行方不明者の配偶者,相続人にあたる者,財産管理人,受遺者など失踪宣告を求めるについての法律上の利害関係を有する者)だけで、申立先は行方不明者の従来の住所地又は居所地の家庭裁判所となります。
失踪宣告とは
失踪宣告とは、文字通り「失踪」を「宣告」することですが、誰が宣告するかというと、家庭裁判所の裁判官です。刑事裁判で「被告を懲役〇〇年に処す」などと言い渡すのと一緒のイメージです。
”失踪”には「普通失踪」と「危難失踪」の2種類があります。普通失踪は、不在者(従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない者)につき、その生死が7年間明らかでない場合で、危難失踪は、戦争、船舶の沈没、震災などの死亡の原因となる危難に遭遇しその危難が去った後その生死が1年間明らかでない場合を指します。
失踪宣告を受けるまでの具体的な流れは以下のようになります。
・利害関係人から家庭裁判所への申し立て
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・裁判所の調査官による調査の後、「不在者は生存の届出をするように、不在者の生存を知っている人はその届出をするように」と官報や裁判所の掲示板に掲示する
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・定められた期間内(3か月以上。危難失踪の場合は1か月以上)に届け出がない場合、裁判所による失踪の宣告
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・裁判所宣告がされてから(10日以内に)市区町村役場に失踪の届出
裁判所による「失踪宣告」がなされると、当該行方不明者は法律上死亡したものとして相続手続きを進めることができるようになります。
失踪宣告を受けた相続人が突然現れたら?
さて、何年も音沙汰もなく行方不明状態だった者が突然戻って来たというケースもあります。
「法律上死亡したものとして扱われる」といっても、実際に生死は不明なわけですから、たとえ裁判所であっても生きている人間に「あなたはもうもう死亡したことにしたから」と決めつけることはできません。失踪宣告を受けた本人や利害関係者などは、失踪宣告の取消を申立てることができ、失踪宣告が取消されると、失踪宣告ははじめからなかったことになります。
「はじめからなかった(執行宣告が)」といって、既に行われた遺産分割協議に沿って行われた相続手続きがすべて”無効”になるわけではありませんが、相続人としての権利はそのままなので、「遺留分侵害額請求権」を行使される可能性はあります。
ただ、すでに相続した遺産を消費してしまっていた場合や、そもそも遺留分侵害請求権の範囲など法的な問題はかなり複雑になりますので、実際にこのようなケースで揉めてしまった場合は相続関係に強い弁護士に相談されることをお勧めします。
行方不明とは
尚、今回の記事でいう「行方不明」とは、住民票や附票を取得したりといった最低限の調査をしたうえで、場合によっては警察への捜索願を出したが行方がわからないといったケースです。
「長年疎遠で連絡も取り合っていないので今の住所がわからない」「故人には前妻との間に認知した子がいるが、名前も今の住所もわからない」といったケースであれば、弊所でも対応が可能な場合もございます。
前述したように、失踪宣告後の取り消しによる相続問題の場合は法的解釈が複雑になることも予測できるため、最初から弁護士に相談されることをお勧めしますが、単に疎遠であったり事情があって現在の住所がわからない相続人がいるというケースであれば失踪宣告の申し立て前に弊所へ一度ご相談ください。
詳しいお話を伺ったうえで、弊所で対応できる範囲の内容であればリーズナブルな価格でサポートさせていただきますし、内容によっては司法書士や弁護士をご紹介させていただきます。