自筆遺言書をおすすめする理由
遺言書作成方法の種類
遺言書の作成方法は、大別して以下の2通りがあります。
- 自筆証書遺言書
- 公正証書遺言書
遺言書の作成を考えた際、多くの場合「確実な遺言を残したい」という思いから公正証書遺言を選択されるようですが、自筆証書遺言書と公正証書遺言書では費用面で大きな差があります。
極端な話し、自筆証書遺言であれば紙とペンがあればよいので費用は0(ゼロ)です。一方「公正証書遺言」は公証人への費用が発生すると共に、証人2人を用意する必要があることからその費用も加算されます。
公証人手数料は、相続対象となる財産の価格とその分け方によって異なりますが、一例として、3,000万円の遺産を配偶者に1,500万、子供2人にそれぞれ750万づつ相続させる場合、手数料が57,000円に遺言手数料11,00円、用紙代等3,000円前後が加算されます。これに、証人2名分の費用と必要書類の取得費用を加えると10万円近くかかる計算になります。
0円 vs 10万円 ですから、ちょっと無視できない金額の差です。
それでも「公正証書遺言」を希望される方が多くいる理由として、以下の3点が挙げられのではないかと思います。
- 作成した遺言書を公証役場で保管してもらえるので安心
- 裁判所での検認が不要になるので後々面倒が無い
- なんとなく「正式な遺言書を残した」という気になれる
3番目の『なんとなく……』というのは、各人の気持ちの問題なので、こちらとしても「そうですか」としか言いようがない(実際は自筆証書遺言と公正証書遺言で優劣の差は全くない)のですが、1番の『保管』と2番の『検認』については、確かに遺言書を公正証書にするメリットでした。
3,900円で国が保管!裁判所の「検認」も不要!
公正証書遺のメリットとして挙げた、遺言書の『保管』と『検認』について、 でした と過去形にしたのには理由があります。
2020(令和2)年7月から、国(法務局)で遺言書を保管してくれる『自筆証書遺言書保管制度』が開始され、この制度を利用することによって、保管だけでなく、相続開始後の家庭裁判所における検認も不要となるのです。しかも申請に掛かる費用は3,900円です。
公証役場も「役場」とつくように、国といえなくもありませんが実態としては公証人の個人店舗です。対して『自筆証書遺言書保管制度』では、国が管理運営する施設(法務局)で直に保管してくれます。
更に、更に…
この制度では新たに『死亡時通知』という制度も始まり、遺言者があらかじめこの通知を希望している場合、その通知対象とされた方に対して、遺言書保管所において、遺言者の死亡の事実が確認できた時に、遺言書が保管されている旨の通知がされます!
遺言書を作成したとしても、その存在自体を誰も知らないままであったなら、そもそも遺言書の意味を成しません。
公証役場では遺言書の保管はしてくれるものの、常に遺言者の生存を確認し死亡時に相続人へ知らせてくれるといったことはありません。この点『自筆証書遺言書保管制度』 を利用した自筆証書遺言書には、公正証書遺言書にはないメリットがあるといえるでしょう。
結論として、 『自筆証書遺言書保管制度』 を利用 することによって、自筆遺言書の懸案であった、①遺言書の紛失・亡失のおそれや、相続人等の利害関係者による遺言書の破棄、隠匿、改ざん等を防ぐという点、②相続が開始された際の家庭裁判所による検認という煩雑な手続きが必要ななる。という2点が解消された以上、決して安価とは言えない費用を払って公正証書にする意味があるのか?もう一度なんおために遺言書を作成しておこうと思ったのか再考する余地はあるように思います。
※こちらのブログ記事もご参照ください➡『自筆証書遺言書保管制度』とは?
それでも公正証書遺言書を選択するメリット
ここまで読んでいただいた方は、当事務所が『自筆証書遺言書をおすすめする理由』をご理解いただけたかと思いますが…
公正証書遺言書にするメリットは全くないのか?というと、そんなことはありません!
公正証書遺言書にする最大のメリットは、遺言内容の法的有効性、つまりは遺言内容に法的に問題がある、もしくは問題を生じる可能性が残っているといった、遺言書の内容面での担保力に差があるという点です。担保力といっても公正証書遺言書にすれば遺言通りの相続が実行されることを公証人が保証してくれるというわけではありませんが、少なくとも法的に実現不可能な内容については作成時に公証人から指摘があります。
自筆証書遺言書保管制度においても、遺言書保管官という法務局の職員が外形的なチェックは行いますが、あくまで日付や署名押印があるかといった形式的なもので、保管する遺言内容まで確認してその有効性を保証してくれるわけではありません。
自筆証書遺言書の場合、相続に関する知識が不十分な状態で想いのまま作成した場合、遺言書に残した相続が実現できなかったり、争族の火種となってしまうこともあるうえ、『遺言書自体が無効』となってしまう危険もはらんでいます。
コスト面だけでなく、遺言書の保管方法や、相続開始後の家庭裁判所での検認の要否、遺言書の存在通知といった点においても、圧倒的に『自筆証書遺言書保管制度』を利用した自筆証書遺言書が有利ですが、問題は作成した遺言書の内容が、法的にも相続人の心情的にも実現可能で安心できる内容になっているか?という点にあります。
こうした問題を解消したうえで出来る限りコストを抑えて遺言書を作成するには、遺言の内容を専門家に相談したうえで原案を作成してもらい、それを自筆したうえで自筆証書遺言書保管制を利用するというのが最良です。