自筆と公正証書、どちらが正式な遺言書?

公正証書遺言書と自筆証書遺言書

遺言書というと、人生の内でもそうそう書くようなものではないというイメージもありますが、確信犯的に複数の遺言書を書いているというケースもあります。

「あなたに私が死んだ後の財産は全てあげるという遺言を書いたわ」といって見せれば、相手からの待遇が良くなるという期待があるからでしよう。更に「これは、”その時”まで私とあなたの秘密にしておいてね」といって複数の人に対して行っていたといたという事例もあります。

こうした確信犯的なケースは稀だとしても、人間ですから心変わりで以前とは異なった遺言書を新たに作成するということもあるでしょう。

自筆と公正証書の遺言書がある

このようなケースで複数の遺言書が存在した場合、一方は『公正証書遺言』でもう一方が『自筆証書遺言』の場合、「公正証書遺言こそが厳格な遺言であり正式な遺言である」と考えてしまう人も少なくありません。

公正証書遺言書は、公証人といった法律の専門家のもとで、証人2名立会いの下に作られ公証役場に保管されるのに対して、自分一人で書いて引き出しの奥にしまっていただけのような自筆証書遺言書は『厳格』さという意味では『略式』かもしれませんが、そのことと遺言書が『正式』かどうかということは全く別の問題です。

どちらも「正式」で変わりはない!

どちらも、マグロ

自筆証書遺言も公正証書遺言も、どちらも民法967条に定められた『正式』な遺言であることに変わりはなく、自筆証書遺言が公正証書遺言に対して劣後するということも一切なく両者は同等です。

自筆証書遺言と公正証書遺言では、作成の工程(方式)が異なるといっただけのことで、買ってきたマグロの切り身を自分で刺身にしてそのまま食すか、すし職人に握ってもらって食すかの違いのようなもので、マグロ自体の味に変わりはないように、自筆証書遺言も公正証書遺言も遺言としての根本的な効力に違いはありません。

作成の過程で大きな差が出る場合もある

作成過程で差が出る

自筆証書遺言書も公正証書遺言書も、最終的に完成した遺言書に法的な効力に違いはありませんが、作成の過程が異なるために、この過程の中で差が出てしまう可能性はあります。

前述のマグロの例で言えば、買ってきたマグロを自分で刺身にする場合、短時間に綺麗に切って盛り付けることが出来ればよいのですが、切り身を長時間手で押さえつけたり、厚さや形もバラバラに切り分けたのでは鮮度や歯応えも変わってしまいます。一方職人が握ったすしであればそうした失敗はないでしょう。

つまり、自分一人で作成した遺言書は作成過程で『失敗』を犯してしまう可能性があるということです。

法的に効力が認められる遺言書にするためには、ルールに沿ったかたちで作成されていなければなりません。言葉一つにしても、「相続」なのか「遺贈」なのか、普段の会話では特に問題にしない使い分けでも、遺言書での法的な意味合いにおいては異なった意味になってしまうこともあります。

最悪の場合、作成された遺言書が法的に『無効』となってしまうこともめずらしいことではありません。

複数の遺言書、結局どうなる?

あの人にも、この人にも、といって複数の遺言書を作成して残していた場合、結局のところどうなるのか?というと、自筆証書遺言書であるとか公正証書遺言書であるといった、遺言書の形式の差ではなく作成された日付が新しいものが有効になるということです。

ただし、日付の古い遺言書は全面的に無効になるかというとそういうわけでもなく、複数の遺言書が出てきた場合、内容に矛盾(抵触)する点があれば、日付の新しいものが有効になります。

たとえば、一方の遺言書に「Aさんに全預金を相続させる」と書いてあり、もう一方には「Bさんに全預金を相続させる」と書いてあれば、どちらかしか実現できないので、こうした場合には日付が新しい方が有効になるということですが、これが「Aさんに〇×銀行の預金を相続させる」という内容のものと「Bさんに△□銀行の預金を相続させる」という内容のものであった場合は、どちらも実現することが出来るので古い日付の遺言も有効になります。

まとめ

遺言書の作成方法(自筆か行使証書か)に優劣の差はなく、どちらも正式

遺言書は、作成日付が新しいものが有効

内容に矛盾(抵触)する部分が無く、全て実現できるなら古い遺言内容も有効

ということになりますので、「自筆証書遺言書に対して、公正証書遺言書が常に有効になる」という考えは誤りです。

ただし、ここで注意が必要なのは自筆証書遺言書の場合、正式な遺言書とするためには法的に適切な言い回しでルールを守って作成されていなければならないという点ですので、この点には十分注意が必要です。