戸籍を「出生から死亡までさかのぼる?」
戸籍を極める(4)
「戸籍を極める」の第4回目です。
今回は、遺言書の作成前や相続が開始された際に、出生から現在(死亡)までの戸籍が必要となる理由と、それにより、どういうことが起こるのかを説明したいと思います。
戸籍をさかのぼらなければならない理由
戸籍は法改正や婚姻などによって、古いものから新しいものへと作り変えられということはご説明したかと思いますが、この時新しい戸籍には元の古い戸籍に書かれている内容がすべて移し替えられるわけではなく、その時点で籍のある人だけが移されます。
そのため、改正歴のある現在戸籍を見ただけでは、改正前の戸籍に何が書かれていたかが不明のため、相続人を確定できません。
現在戸籍には、被相続人と配偶者、子供一人が記載されているからといって、これだけをもって相続人は配偶者と子供の合計二人であるとは断言できないのです。
被相続人と配偶者の間には現在戸籍に記載されている子供以外にもう一人子供がいて、改正前に婚姻して別戸籍となっているということは十分考えられます。
連続した戸籍の取得例
戸籍をさかのぼるとは、下図のように改正や転籍、婚姻による新たな戸籍の編製といった戸籍の変化に応じて過去へと戻って行くことです。
戸籍①
平成6年法務省令による改製があったので改正原戸籍謄本を取得する。
戸籍②
大阪から東京へ転籍(本籍を大阪から東京に移した)していたので、大阪の本籍地で除籍謄本を取得する。
戸籍③
昭和32年法務省令による改製があったので改正原戸籍謄本を取得する。
戸籍④
婚姻により分籍されていたので、被相続人の父を筆頭者とした除籍謄本を取得する。
戸籍⑤
父は祖父の死により家督相続していたので祖父を筆頭者とした除籍謄本を取得する。
実際の戸籍イメージ
1.現在戸籍
下図は死亡した『一郎』の現在戸籍です。
これを見る限り、相続人となるのは妻の『和子』と長女の『愛』の二名だけのように思えます。
しかし、この戸籍は①にあるように平成16年10月2日に改製された戸籍なので、改正前の戸籍も調べてみる必要があります。
2.改正原戸籍
下図が、改正前の改正原戸籍です。
④を見ると、現在戸籍が編製された日付①と同一日で削除されていますので、この2つの戸籍の間には何もないことが分かります。もし仮に、この日付が現在戸籍が編製された日付よりも前であったら、その日付と現在戸籍の改製日との間に更に別の戸籍があることになりますので、そちらも取得しなければなりません。
さて、これを見ると『愛』の他に『勇気』という長男がいたことがわかります。勇気は平成23年4月1日に鈴木夢子と婚姻し新たな戸籍が作られ、一郎の戸籍から除籍されたため×が記されています。
原戸籍を取得したことにより、一郎の相続人にになりうるのは、妻の『和子』と長女『愛』だけではなく、長男『勇気』を含めた三名であることが判明しました。
しかし、まだここで安心はできません。
③を見ると、この戸籍は昭和63年11月22日に編成されたものなので、一郎が出生した昭和35年2月3日までの間がまだ空白です。
3.父を筆頭者とした戸籍
下図は、一郎の父『田中 太郎』を筆頭者とした戸籍です。
『一郎』の身分事項欄を見ると、⑤に出生の記録があり、その後の⑥で昭和63年11月22日に山田和子と婚姻し太郎の戸籍から除籍となった旨の記録があります。⑥と「2.改正原戸籍」の④と日付が一致しますので、これで空白部分がなくなり、連続した戸籍とすることが出来ました。
今回は、話が複雑になりすぎるので⑤と⑥の間には何も無いことにしましたが、仮に『和子』との婚姻前に離婚歴があったりすれば、更に遡る必要が出てくるということです。
このように、相続人を正しく把握するためには被相続人の出生から死亡までの全ての身分事項を確認しなければならず、そのためには戸籍をさかのぼって取得しなければならないのです。
「戸籍を極める」Continue
次回は「日本の戸籍制度の変遷について」書いてみたいと思います。