手が震える母に添え手をして書いてもらった遺言書は有効?
前回は、遺言するには”遺言能力”が必要なので、遺言書を作成するのであれば元気で判断能力もしっかりとしたときとお伝えしました。
今回は、判断能力はしっかりしているものの、手が震えて一人ではうまく字が書けないという場合に、添え手をして書いた遺言書はどうなるのか?という話です。
公正証書なら自分で書かなくてもいい
このような場合は、公正証書遺言にすることを勧められることが一般的だと思います。手の震えなどで運筆がうまくできない場合でも、公正証書であれば公証人へ口頭で内容を伝え代筆してもらうことができます。
また、公証人とうまく日程の調整が出来れば、こちらから公証役場まで出向くことなく、公証人に自宅や病院、施設等に来てもらうことも出来ます。
問題は、それなりにお金がかかるという点で、公証人に出張依頼するとなるとその分の費用も加算されてしまいます。
添え手による遺言書に対する裁判所の見解
さて、運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言が有効かどうかという点ですが、裁判所の見解としては昭和58年3月16日大阪高等裁判所による判決では、「自書」の要件について以下のように述べています。
「自書」を要件とする前記のような法の趣旨に照らすと、病気その他の理由により運筆について他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は、(1) 遺言者が証書作成時に自書能力を有し、(2) 他人の添え手が、単に始筆若しくは改行にあたり若しくは字の間配りや行間を整えるため遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は遺言者の手の動きが遺言者の望みにまかされており、遺言者は添え手をした他人から単に筆記を容易にするための支えを借りただけであり、かつ、(3) 添え手が右のような態様のものにとどまること、すなわち添え手をした他人の意思が介入した形跡のないことが、筆跡のうえで判定できる場合には、「自書」の要件を充たすものとして、有効であると解するのが相当である。
昭和56(ネ)775 判決文