仲の良かったきょうだいがなぜ相続で揉めるのか
「あれほど仲の良かったきょうだいが相続で揉めてしまった」
というはなしはよく聞きますし、実際の事例としても少なくないようです。
対立を生みやすいのは『特別受益』と『寄与分』
きょうだい間で遺産分割の話し合いをする際に、対立を生みやすいのが特別受益と寄与分という考え方です。
特別受益
特別受益というのは、主に生前贈与のことで、例えば、長男が自宅を買ったときに頭金の一部として500万円を援助してもらったというような場合で、この場合法律は500万円を考慮して遺産を分けるのが公平だとしています。これを『特別受益の持戻し』といいます。
そして、この特別受益の持戻しを考慮する段階が争いになりやすいのです。
長男にしてみれば、「たしかに頭金の一部は援助してもらったけど、それをいうなら長女である妹だって、海外旅行へゆくたびに50万100万とかなりの金額を貰っていたと聞いている。住宅の頭金をいうならそれらも考慮しなければ公平とは言えない」といい出します。
それに対して、妹は「そんな細かいことを言うなら兄が車を買ったときだっていくらか出してもらっているはずです」と反論してきます。
そもそも親子間での援助の話ですから契約書のようなものがあるはずもなく、いついくら援助してもらったのか正確に把握することは困難で、そうした生前贈与をすべてきちんと考慮するのは不可能に近く、その結果として争いになりやすいのです。
こうした対立の根本にあるのは、親の愛に対する嫉妬であるケースが多いものです。「生前兄のほうが私より頭金の分多く愛されてのだから、その分を遺産で取り戻したい」ということです。
寄与分
寄与分とは、亡くなった人の面倒を特別にみたときに、遺産分割の際にもそのことを考慮しようというもので、例えば、長男の兄は数年前に結婚して家を出ているので、親と同居している次女が高齢になった親の面倒をみてきたといった場合に、「年に数回しか来ない兄に比べ、足腰の弱ってきた親のために炊事洗濯など家事全般をこなし面倒を見てきた私が兄よりも多くの遺産をもらって当然ではないでしょうか」と妹は考えます。
こうしたケースでの妹の言い分を民法では『寄与分』として認めています。(注)
しかし、この場面でも対立が生まれやすいのです。
兄にしてみれば「確かに妹は親と同居して面倒を見てくれていたけれども、その分親の年金で自分の生活費の一部を賄っていたはずだし、自分だって週に一度は電話をして話し相手になってきたのに、同居していたかどうかで親を思う気持ちに差をつけるのはおかしいだろう」と言います。
この場合でも、妹はお金がほしいわけではなく、寄与分という制度で自分がしてきたことを認めてほしいといった感情が根底にあるのです。
(注)法律で認められている『寄与分』ですが、実際にこれが認められるには親の財産の維持・増加に貢献したといった具体的かつ明確な立証が必要で、単に同居して家事全般を手伝っていたという程度では認められないことが多いです。
お金の問題というよりも感情の問題
このように、『特別受益』と『寄与分』はお金の問題であることは確かですが、きょうだい間では、自分に対する親の愛情や、親に対する奉仕を認めてもらいたいといった感情的な対立を招きやすいのです。
確かに、親の財産自体をあてにしているという金銭的な損得の面もあるかもしれませんが、遺産分割による具体的な数字が、自分がどれくらい親に愛されていたか、自分がどれだけ親を愛していたかといった証明にもなってしまう側面があるために対立として表面化しやすいのではないでしょうか。
だから、「資産も十分にある兄が、姉が、弟が、妹が…どうしてこんなにがめつく言ってくるのだろう?」といったことも起こり得るのです。
自分だけが1円でも多く取ろうと考えているわけではなく、「公平」という感覚は誰もが持っているのですが、その「公平」が各人それぞれの「主観による公平」になりやすいということなのだと思います。
きょうだい間の争いというのは、愛情の問題が金銭の問題へと質的に変化してしまっていることが多いように感じます。
こうした争いを避けるには
このような争いが起こるキッカケとなるのは、遺された遺産をどのように分割するかという話し合いをする『遺産分割協議』の場です。
ということは、こうした話し合いの場『遺産分割協議」をしないで済むような状況を作っておくことができればよいわけで、遺産分割協議を行わずに済ませるには遺言書を作成しておくことです。
もちろん遺言書の内容次第では、争いが生じる可能性もありますが少なくとも自分の気持ち、想いといったものは伝えることができるため、遺された子供たちそれぞれが自分の主観だけを主張しあうという事態は避けられるのではないでしょうか。
遺言書は、誰に何をどのくらい遺すかといった経済的な内容が主になりますが、決してお金の話だけではなく、その裏側にある愛情や遺された者の感情といったものにも意味があるということです。
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