不倫相手(愛人)へ遺贈する旨の遺言は無効になるかも

自分の死後、財産をどのように処理するかは遺言書によって指定することができます。遺留分減殺請求権を行使されるかどうかは別にして、全財産を慈善団体へ寄付することも可能ですし、なんなら好きなタレントへあげてしまうことも一応可能でしょう。

ならば、鬼嫁よりも愛人へ…

なんてことを考えている人は要注意です。
※因みに、吹き出しのアイコンはあくまでイメージですので誤解なきよう!

公序良俗に反する遺言は無効

ちょっと聞きなれない「公序良俗」という言葉で、「国家社会の安定的な維持と、善良かつ健全な国民生活の営み」を意味しますが、簡単に言えば人としての道徳観やモラルといったことで、これに反する法律行為は無効になります。

【民法第90条】
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

さて、今回のテーマ?である「不倫」ですが、日本には不倫に刑罰を科す法律はないので犯罪ではないという事になります。なので、不倫をしたからといって逮捕され刑務所へ入れられることもありません。

一方、著名人の不倫騒動による失脚を見るまでもなく、不倫が「公序良俗」に反するということは、誰もが理解していることだと思います。

ということは、「愛人への遺贈=全て無効」か、というとそうでもないところがあって、この辺りがややこしいところです。

無効を主張されて裁判になった場合

遺言においても、不倫相手の愛人へ遺贈が「公序良俗」に反して無効にならないかということは過去にも争われていますが、判決は個々の状況により分かれています。

ザックリとまとめると、

・遺贈の目的が不倫関係の維持を目的とするものでなく、相手方の生活保全であった⇒公序良俗に反しない

・遺贈の目的が不倫関係の維持でないとしても、遺贈により相続人の生活基盤が脅かされる場合⇒公序良俗に反する

ということです。

つまり、不倫はモラルに反するけど、遺言により財産を遺贈する場合において、愛人の今後の生活を想っての事ならまぁ許すけど、それにしても、それが遺された遺族の生活を犠牲にしてまでというのはダメだよ、という事のようです。この辺りは「遺留分」に通じた考え方ですね。

なのですが…

事実上婚姻関係が破綻した後に愛人と同棲生活を送り10年が経過していた際に、全財産を愛人に包括遺贈する旨の遺言は、公序良俗には反しないとされた事例もあります。(平成4年 仙台高裁)

因みに、不倫は犯罪ではないというのは前述したとおりですが、「不法行為」として、損害賠償の対象になる場合もありますので、念の為。

まとめ

今回は、「不倫相手(愛人)へ遺贈する旨の遺言は無効になるのか?」というタイトルで記事を書きましたが、お伝えしたかったことは、”自分の想いを伝えるものが遺言書”で例え”自分の死後のことだとしても”、そこにはやはり一定の倫理、道徳というものが必要という事で、それを無視した一方的な思いは、たとえ書くことは自由であっても法的な保護は無いという事です。

「道徳経済合一説」の渋沢栄一像