タイタニックの乗客が遺言するには

先週、先々週と2週にわたってフジテレビの「土曜プレミアム」で映画「タイタニック」が放送されましたが、もし仮にあなたがタイタニックの乗客で「法的にも有効な遺言を残しておきたい」という場合、どのような方法をとりますか?

「遺言を書いたメモを瓶に詰めて流す」

×××! 浜田省吾の「瓶に詰めたラブレター」じゃないんですから…

以前、遺言の種類「特別遺言」という記事でも少し触れましたが、民法に定められた遺言には「船舶遭難者の遺言」というものがあります。

以下が、その条文ですが、要約すると「誰でもいいので二人以上の人に口頭で遺言をすればとりあえずOKだよ」ということです。

船舶遭難者の遺言

 船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。

 口がきけない者が前項の規定により遺言をする場合には、遺言者は、通訳人の通訳によりこれをしなければならない。

 前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。

 第九百七十六条第五項の規定は、前項の場合について準用する。

民法第九百七十九条

上記条文の4項「第九百七十六条第五項の規定は、前項の場合について準用する。」とは、「家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。」という条文を、ここでも採用するということです。

また、第3項において承認が署名押印をすることを規定していますが、これについては危急に迫っているわけですから、その場で行う必要は無く、証人が安全な状態に戻ったときに行えばよいことになっています。

問題は、口頭で伝えた証人が危急を脱し生還してくれるかという点です。タイタニックの乗客生存率が32%であったらしいので、確実性という点ではあまり期待できないものの全く無駄ということでもないようです。

ちなみに、タイタニックの客室別の生存率は下記の通りであったようなので、証人を選ぶなら一等客室の女性にするのが良いですね。

男性女性子供全体
一等客室34%97%100%63%
二等客室8%84%100%42%
三等客室12%55%30%25%
乗員22%91%23%

「う~ん、ここでも金持ち(一等客室なんだから多分)が有利なわけですか(>_<)」

さて、無事に証人は生還し、署名・押印もしてくれたとします。しかし、これを法的に有効な遺言書として各種手続きを進めるにあたっては、家庭裁判所の検認が必要となります。

そして、ここで重要になるのが前述した法第4項の「第九百七十六条第五項の規定は、前項の場合について準用する。」という条文で、検認を求めた遺言について家庭裁判所が「遺言者の真意に出たものであるとの心証を得る」かどうかが問題となってくるわけです。

これは実に難しい論点ですよね。家庭裁判所は何をもって「遺言者の真意から出たもの」と判断するのでしょう?

というわけで、一応法的に有効な遺言書を遺す手段はあるものの、「現実的にどうなのよ?」というのが私の結論です。

最後に余談ですが、タイタンの事故が報道された後のタイミングで「タイタニックを予定通り放送する」と決したフジテレビ内の経緯が気になります。(賛否は別として)