「遺骨は海に(山に)撒いて欲しい…」は問題ないの?

最近は「樹木葬」や「海洋散骨」などといった言葉もよく聞くようになってきましたので、エンディングノートにも「お墓はいらないので、自分の遺骨は〇〇の海に(山に)撒いてほしい」という希望を書いておきたいという人もいるでしょう。

『樹木葬』と『海や山に撒く(散骨)』の違い

先ず、『樹木葬』と『散骨』の違いについてザックリ解説します。

どちらも同じように、海や山など自然の中にお骨を撒いたりすることだと考えている人もいるようですが、両者は根本的に異なります。

『樹木葬』は、遺骨を地中に埋めるもの(埋葬)で、『散骨』は骨を粉状に砕き陸地又は水面(空中、宇宙とかもあるようですが…)に散布、又は投下するものです。

どちらも自然に還るというイメージで「自然葬」と一括りにしている記述も見られるので混同してしまうかもしれませんが、ここは明確に区別しておく必要があります。

一般的な樹木葬は通常の墓地と同じで、法的にも『墓地、埋葬等に関する法律』で規定された墓地における埋葬法のひとつであって、樹木葬を扱っている墓地やお寺など決まった場所でしか行うことができません。一方、散骨には明確な法律的位置づけがなく、2021年3月30日に厚生労働省が示した『散骨に関するガイドライン』に基づいて行われているのが一般的です。

散骨は違法ではありません

散骨に対する情報として、「違法」あるいは違法とまで言わずとも「グレー」である。といった情報を目にすることもありますが、法に反している(違法)か?と聞かれれば、「法には反してはいません!」つまり違法ではなく合法です。

というのも、散骨に対する具体的な条文自体が無いからです。「法律に無いということは、法律で認められていないってことだろう」と思われる方もいるかもしれませんが、法律に定められたことしかできないというのでは、世の中できないことだらけになってしまいます。

墓地、埋葬等に関する法律の第四条では、「①埋葬又は焼骨の埋蔵は、墓地以外の区域に、これを行つてはならない。②火葬は、火葬場以外の施設でこれを行つてはならない。」と定められているのみで「散骨」という言葉もそれに類する記述もありません。

散骨に関しては、1998年6月厚生労働省が「これからの墓地等の在り方を考える懇談会」の報告書で「散骨が公衆衛生上の問題を生じたり、社会通念上国民の宗教的感情を損なうような形で行われるのでなければ現行法上特に規制の対象にする必要が無いというのが現在の行政の考え方であり、これは是認できるものである」としたのが一応の指針で、一定条件のもとで行われる散骨は規制の対処ではなく是認されるものということになります。

散骨するには、焼骨を細かく粉末化し撒くことになるため、刑法百九十条(死体損壊等)「死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、三年以下の懲役に処する。」に照らして、粉末化を「損壊」ではないか、海や山に撒くことを「遺棄」ではないか、といった見方をされる方もあります。

これについては、1990年 法務省刑事局が「刑法190条の規定は社会的習俗としての宗教的感情などを保護するのが目的であり、葬送のための祭祀で節度をもって行われる限り問題はない」との見解を示しています。

以上のことから、散骨は節度を守って行っているかぎり刑罰法規や行政法規に違反するものではなく適法です。

とはいえ、どこへ撒いてもいいというわけではない

散骨に関しては特に決まりはないといっても、故人の希望する場所なら、どこで行っても良いというわけではありません。

散骨について、前述した「散骨に関するガイドライン」には以下のように定義されています。

散骨は、次のような場所で行うこと。

① 陸上の場合 あらかじめ特定した区域(河川及び湖沼を除く。)

② 海洋の場合 海岸から一定の距離以上離れた海域(地理条件、利用状況等の実情を踏まえ適切な距離を設定する。)

厚生労働省 「散骨に関するガイドライン(散骨事業者向け)」

また、散骨の原則として「散骨は節度を守って行っているかぎり」という条件があります。更には、「散骨が公衆衛生上の問題を生じたり、社会通念上国民の宗教的感情を損なうような形で行われるのでなければ」という条件にも留意する必要があるでしょう。どちらもやや具体性を欠いた表現になっていますが、いずれにしても、節度があるのかや宗教的感情が損なわれるかどうかは故人の希望や遺族の判断で決まるものではなく、社会通念上一般の人がどう受け取るか?ということですから、散骨する側のモラルが問われています。

上記の「条件」は、あくまでガイドラインや報告書として示されているだけで法律ではありませんので、これに反したからといってそれだけをもって直ちに罪に問われるということはありませんが、条例によって具体的に規制している自治体も存在します。

そもそも、山林や森といっても誰かの土地ですから、他人の土地へ勝手に散骨するという行為は論外です。海上に関しては原則公共用物であり、国の公法的支配管理に服するものですが、自治体によってはガイドラインや指針といった形で方針を示しています。

富士山に散骨してもいい?

富士山は八合目から山頂は富士山本宮浅間大社の私有地であり、七合目以下は国有林と山梨県有林ですから、これらの許可なく散骨することはできませんので、現実問題として許可してくれないでしょう。

自宅の庭に散骨してもいい?

所有権のある自宅に散骨することは可能か?という問題に関しては、一応節度を守って行うかぎり可能といえるでしょうが、微妙な点もあると思われます。

東京都保健医療局ホームページにある「散骨に関する留意事項」にQ&Aの形式で以下のような回答が掲載されています。ここでも、明確に「ダメ」とは書かれていませんが、例え自宅とは言え住宅街で散骨するというのは「公衆衛生上の問題を生じたり、社会通念上国民の宗教的感情を損なうような形じゃないですか…」といった否定的なニュアンスが伝わってきます。

Q:自宅の庭に散骨してもよいですか。

A:散骨は、死者の遺骨を自然に還すという考え方、いわゆる「自然葬」として海や山などで行われるようになったものです。
人骨に対する感情は人により様々であり、焼骨を撒けば、風で飛ばされたり、住まいのそばに骨が撒かれたということで気分を害する人も出てきます。
なお、個人が庭などに墓地をつくることは法令上認められていません。

東京都保健医療局「散骨に関する留意事項」

合法であることと、民事上の損害賠償は別物

法律で禁止されていないということと、民事上の損害賠償請求の対象となるかは別問題です。

散骨により、農作物や魚介類に直接の影響がなくとも、風評被害による価格の下落や出荷の減少などの損害を理由に損害賠償を請求される可能性もあり得ます。

前述した「自宅に散骨してもいいか?」の補足にもなりますが、遺骨というのはスピリチュアルな要素があるので、散骨している家があるということで周辺の地価が下落したなどという場合にも損害賠償の対象になるかもしれません。

散骨は合法だが、しっかりした業者へ依頼する必要がある

散骨に関して、法的な問題点を中心に説明してきましたが、現実問題として、散骨をする場合、地上(山等)はなかなか条件的に難しく海への散骨が中心になるかと思いますが、これにしても粉骨や自治体毎の指針、周辺漁業者との調整等々素人には難しい問題も数多くあるので、海洋散骨を専門とした業者へ依頼することが必要になるかと思います。

その際に注意すべき点は、よくよく業者の選別をしっかりと見極めることです。中には祭祀としての散骨というよりも遺骨の”処分”のような扱いで処理している(ヤミ)業者もあるように聞きます。基本的に漁船や釣船が散骨希望者を乗船させることはできません。海洋散骨を行うには「不定期航路事業」の許可を取得する必要があるので、そうした許可をきちんと取得したうえで運営されているか等も業者選の参考になるかと思います。

きちんとした業者であれば、遺骨を撒いた場所の緯度と経度を記録し、散骨された日時と共に記した証明書を発行してくれますので数年後に同じ場所まで行くことも出来ますし、定期的に近隣海域まで行くメモリアルクルーズを企画している業者もあるようです。

日本海洋散骨協会という業界団体があり、この加盟業者であればとりあえず安心なように思えます。海洋散骨に関しての情報も充実しているので、検討されている方は一度確認してみるとよいと思います。

日本海洋散骨協会ホームページ: https://kaiyousou.or.jp/