死後離婚とは?

「死後離婚」とはなかなかインパクトのある言葉ですが、公的制度として「死後離婚」という手続きがあるわけではありません。

中には「死後離婚」という言葉から、遺言書に「私は夫〇〇〇〇と離婚する」等と書いておけば、「自分の死後正式に離婚することができる」と勘違いされている方すらいるようです。

日本の制度上、夫婦の一方が亡くなった後で離婚届を提出することはできないので、そもそも「死後」に「離婚」をすることは「出来ない」ことになります。

一方、配偶者が死亡した場合には「婚姻関係は解消されたものとみなされる」ので、再婚することはできるようになります。(日本では重婚は法律によって禁止(民法第732条)されています。)

「死後離婚」という言葉がいつだれによって生み出されたのか正確なところはわかりませんが、2015(平27)年頃からメディアで取り上げられるようになり、社会問題としてテレビや週刊誌で特集が組まれるようになったようです。

何をもって「死後離婚」というのか?

前述したとおり、配偶者が亡くなった後では離婚届が提出できないのであれば、いったいこの「死後離婚」という言葉は何をもって離婚としているのかというと、手続きとしては「姻族関係終了届」という書類を役所へ提出することを指しているようです。

「姻族関係」とは婚姻によって関係ができた親族で、義理の父母や兄弟姉妹などをいい、「姻族関係終了届」とは文字通りこれらの関係を終了させ、義理の父母や兄弟姉妹などとは赤の他人になるということです。

なかには「えっ、配偶者が死んだ後も義理の父母や兄弟姉妹などとは親族のままなの?」と疑問に思われる方もいるかもしれませんが、実生活上での付き合いがどうあれ、法的には配偶者の死亡後も義理の父母や兄弟姉妹などとの姻族関係はそのまま続くことになります。

法律の条文を持ち出したりして、堅苦しい話になってしまいますが、ここは正しく理解しておいた方がよいと思うので、以下2つの条文を一読してください。

【民法第728条】
①姻族関係は、離婚によって終了する。
②夫婦の一方が死亡した場合において、生存配偶者が姻族関係を終了させる意思を表示したときも、前項と同様とする。

【戸籍法第96条 】
民法第728条2項の規定によって姻族関係を終了させる意思を表示しようとする者は、死亡した配偶者の氏名、本籍及び死亡の年月日を届出書に記載して、その旨を届け出なければならない。

ちょっとわかり難いのが民法第728条の②かと思うのですが、これは「あなたの配偶者が死亡した場合、あなたが「姻族関係を終了させる」と言えば終了させますよ」ということで、逆に言えば「あなたが何も言わなければそのままですよ」ということになります。

ただ、独り言のように「姻族関係終了しま~す」と口頭で言うだけでは勿論ダメで、戸籍法第96条で「ちゃんと書面による届け出をしてくださいね」ということです。

何のために「死後離婚」する?

「姻族関係終了届」を出してまで関係を終了させることにどのような意味があるのか?を考えてみると、通常の生活において特に具体的な法的効果が期待できるようなものではありません。

法律上、裁判所は「特別の事情がある場合には3親等(叔父叔母、甥姪)までの姻族の扶養義務を負わせることができる(民法877条第2項)」としていますが、これは倫理規定と解され強制力はありませんし、現実問題として通常そのような義務を負わされることはないと考えてよいでしょう。

だとすると、なぜ「死後離婚」なる言葉まで生まれ、メディアで話題になり特集が組まれるほどに関心が高まってきたかというと、法律的な「権利や義務」といったことだけではなく「気持ち」の問題がクローズアップされてきたからだと考えられます。

折り合いの悪い姻族とは連絡を絶って、付き合いをしなければ済むことのようにも思いますが、「気持ちの整理」として法的にもキチンと縁を切りたいということなのでしょう。

「姻族関係終了届」を出したことで、何か法的な義務から逃れられるとか権利が得られるというようなことが目的ではなく、法的な手続きを踏むことで「けじめがつけられた」「晴れ晴れとした気持ちになれた」「モヤモヤがすっきりした」等といった「気持ちの整理」が目的で、これにより鬱に近い状態から脱出できたり、新たな人生を前向きに生きられるようになったといった効果が得られるのではないでしょうか。

人間関係の負の感情というのは、心身を蝕むだけでなく、ときとして周囲を巻き込んで負の連鎖を起こしてしまうので、「気持ちの問題」と軽く片付けられる問題ではないことは確かだと思います。

相続や遺族年金には影響しない

「姻族関係終了届」により、姻族関係を終了させたからといって配偶者の相続人という地位に変化はありませんので、義理の父母や兄弟姉妹などに「相続した財産を返せ」などと言われても応じる必要はありませんし、遺族年金を受給しているのであればそれが打ち切られるようなこともありません。

あくまでも、自分(申出人)と姻族との関係が終了するだけです。ですので、子供がいる場合子供と義理の父母(子にとっての祖父祖母)の関係にも影響はなく、子が祖父祖母の(代襲)相続人という地位であることにも変わりはありません。

最後に一言

「姻族関係終了届」を提出する際に、事前に相手(姻族)方に知らせる必要もありませんし、承諾を得る必要もありません。住所地または本籍地の役所に紙1枚提出するだけの簡単な手続きですから、その気になればいつでも実行することができるといえます。

ただ、そうした行為により更に姻族との関係が悪化し、ストレスが増えてしまったということも考えられます。地理的に遠く離れ二度と会う可能性も無いというのであればまだしも、比較的近くに暮らしているような場合は、その辺りも勘案して決断した方が穏やかに終息させられるかもしれません。

いずれにしても、「姻族関係終了届」を出したからといって、強制力をもって自分に近づけないようにすることができるわけではないので、一時の感情で動くのではなく、実の両親や友人など相談できる人を見つけて、自分の気持ちを聞いてもらいアドバイスにも耳を傾けたうえで判断していただきたいと思います。