「夫婦二人きりなので相続で揉めることはない」は危険!

相続というと「配偶者や子どもに自分の財産を引き継ぐもの」という考えが前提にあるため、そこでの揉め事は「子ども同士が互いに自分の取り分を巡って争いになる」というパターンを連想されることが多いようです。
実際”争族”といわれるパターンとして、親の相続を巡って兄弟姉妹が争うという事例が多いことは確かですが、かといって「子どもがいないから揉めることもない」と安心しきって、気楽に構えているというのも危険です。
夫婦二人だけの場合「どちらが先に亡くなっても財産はすべて遺された配偶者のものになる」と単純に考えている方もいるようですが、実際にはそうならないことのほうが多いのが現実です。
夫婦二人だけだから起こる問題
誰が相続人になるかは法律で決まっていて、子どものいない夫婦の場合には配偶者の他、親や祖父母、兄弟姉妹や甥姪が相続人になることがあります。
義理の両親や遠方に住み疎遠だった義理の兄弟姉妹、甥、姪に連絡を取って相続についての話し合いを行い、遺産分割協議書を作成し実印を押してもらったうえで印鑑証明書などの書類も用意してもらわなければなりません。
これだけでも遺された配偶者にとっては負担となりますが、更にここでの話し合いがこじれるような事になった場合、ただでさえ悲しみの中にいる配偶者にとって精神的にもかなり辛い状態に追い込まれてしまいます。
親戚と言っても、生前深い付き合いがあったわけでもないので、配偶者にすべて相続させることに異議を唱える人もいないだろうと思うかもしれませんが、世の中そう簡単に事が進むことのほうが少なく、「法律でもらう権利があるというのならもらって当然…」と考える人も少なくありません。
場合によっては、遺された配偶者に限らず被相続人自身も一度も会ったこともなければ名前すら知らなかった甥姪に、二人で築き上げてきた財産を渡さなければならないという事にもなります。
配偶者に全ての財産を相続させるには
遺された配偶者に負担をかけず全ての財産を渡したいと考えるなら、生前にやっておかなければならないことがあります。

【それは…】
遺言書を作成しておくことです。
遺言書というと難しく考え先延ばしにされている方が多いのですが、何も複雑な遺言書をつくる必要はなく、「全ての財産を妻(夫)に相続させる」と一言書いておくだけでもかまいません。遺言書があれば遺産分割協議書を作成するための話し合いをする必要もなくなります。
配偶者の負担を考えると公正証書遺言書を作成しておくことが望ましいのですが、それなりの費用や手続きも必要となってきますので、ちょっと敷居が高いと思うであれば、コピー用紙でも何でも良いのでA4の紙に「遺言者は、遺言者の有する一切の財産を、遺言者の妻(夫)◯◯ ◯◯(◯年◯月◯日生)に相続させる」とだけ書いて、法務局へ預けておくのが良いでしょう。自宅に保管しておくことでもかまいませんが、法務局へ預けておくことで、相続開始時の検認手続きを省くことができます。
ネットや遺言書文例集といった書籍などのなかには、聞き慣れない難しい法律用語を使っていたり、相続財産を具体的に細かく記載している例も見られますが、自筆遺言書の場合には記載する内容が多くなればそれだけ誤記の可能性も増えますし、意味もわからず難しい言葉を使うと、かえって趣旨を不明確にしてしまう可能性もあるため、専門家のアドバイスを受けながら書くのでなければ、できるだけシンプルにしておくほうが間違いがありません。
親には遺留分という権利がある
遺留分というのは、遺言書の内容にかかわらず一定割合の相続分を請求できる権利のことで、遺言書に「全ての財産を妻(夫)に相続させる」と書いてあったとしても、一定割合を受けとることができるというもので、義理の親が存命の場合には、この権利が生じることになります。(尚、この権利は被相続人の兄弟姉妹にはありません。)
ただし遺留分と言っても、あくまで”請求する権利”で、権利を行使するかどうかは親次第ということで、遺言書に必ず遺留分を除外した分を記載しなければならないということではありませんので「全ての財産を妻(夫)に相続させる」とした遺言書でも全く問題は有りません。請求されたら支払えばよいだけです。
まとめ
子どものいない夫婦二人の場合、親や兄弟姉妹も相続人に加わる可能性があることを考え、遺言を書いておくことでスムーズな相続手続きを行うことができます。
公正証書遺言書は敷居が高いと感じるのであれば、せめてシンプルな自筆証書遺言書を作成し、法務局の遺言書保管制度を利用することを検討してみましょう。