遺言書があれば内縁の妻も預貯金を払い戻せるのか?

特定財産の承継遺言の場合、原則として遺言で指定された相続人のみで払い戻し請求ができますが、内縁関係の妻の場合はどうなるのでしょう?

他の相続人や遺言執行者の協力なく、自分だけで払い戻し請求ができるのでしょうか?

具体的には、以下のような遺言があった場合に、内縁の妻である「山田花子」さんは遺言に基づき単独で金融機関へ払い戻し請求ができるのか?という問題です。

◯◯◯銀行XXX支店の遺言者名義の普通預金、口座番号123456の全てを山田花子(昭和◯◯年◯月◯日生)東京都千代田区千代田1-1-1に遺贈する。

ここで、ポイントになるのが内縁関係の場合、相続人ではなく受遺者という立場になる点です。これは法律でそう決まっているので、例えば上の遺言内容で「…遺贈する」ではなく「…相続させる」と書かれていたとしてもその法的立場は変わりません。

預金の場合、金融機関によって用意する書類や対応が異なる場合もありますが、法的には原則内縁関係である妻が単独で払い戻し請求をすることはできず、相続人全員または遺言執行者の協力が必要になるということです。

  • この点を法的に少し補足すると
    • 遺言により預貯金を遺贈する旨の記載がある場合、被相続人死亡時に、当該預貯金は受遺者に遺贈により権利移転する。ただし、当該権利移転を債務者に対抗するためには、対抗要件を具備する必要があり、債権の移転については、遺贈義務者による債務者への通知または債務者の承諾が必要である。最判49.4.26
    • ここで
      被相続人:亡くなった内縁関係の夫
      受遺者:山田花子さん
      債務者:遺言で指定された金融機関
      ということになりますが、遺贈義務者というのは「遺贈の履行をする義務を負う者」と民法987条前段括弧書に定義されていて、具体的には相続人全員または遺言執行者ということになります。
    • そして
      「対抗要件を具備する必要が…」からのくだりは、金融機関へ払い戻しを請求するには前述「遺贈義務者」からの通知が必要としています。
  • 因みに、相続人の場合は民法899条の2の2に、相続人が遺言の内容を明らかにして債務者に通知すれば、共同相続人の全員が債務者に通知したものとみなす旨の規定が設けられているため、金融機関に対し遺言書を提示し遺言の内容を明らかにすれば単独で払い戻し請求ができることになります。 
画像:相続による預貯金引き出し

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